【少女まんが館分庫】
第2回
<春のラブコメ11選>

 春や春、春爛漫の、ローマンス…てことで、少女まんが館分庫でもこの季節にふさわしい、ラブコメや、シリアスでないラブロマンスを中心としたタイトルを集め、お届けいたします。
 蔵書との兼ね合いで、どうしても特集に入れられなかったタイトルもありますが、いちおうバリエーションには気を配ったつもりなので、永遠の少女を自認する方にも、しばらく少女まんがから遠ざかってた方にも、楽しめるセレクトになってると思います。
 (セレクト&紹介文/少女まんが館副館長 岡村みどり)

・『アップルマーチ』1〜2 里中満智子(講談社コミックスなかよし)
 満智子タンというと、とかく『アリエスの乙女たち』など、シリアスなものにばかりスポットが当たるけれど、
この作品を今読むと、氏がスクリューボール・コメディの名手でもあったという事がわかります。
ヒロインで双子の片割れであるマギーの健やかな可愛らしさに、しばし魅了されてください。

・『冬・春・あなた』くらもちふさこ(マーガレットコミックス)
あなたは好きな人の為、たどたどしくお菓子を焼いたり、編み物したりしましたか?
クラス分けで悲しかったのは、友達よりも異性のあの人と離れることでしたか?
修学旅行の自由行動で思い人と歩きたくて、旅行前から眠れぬ日々を過ごしましたか?
そして学校を卒業する際、思いきって第二ボタンをもらったりしましたか?
これらの問いにいちいち心当たりある方はこの作品を読んでさらに、胸を熱くしてください。

・『日曜日はげんき!』冲倉利津子(マーガレットコミックス)
『リボンの騎士』に端を発したボーイッシュなヒロインというもの、現在も『少女革命ウテナ』をはじめ、少女まんがに欠かす事の出来ない存在となっていますが、冲倉利律子の生みだしたお転婆中学生・武田世津子ことセッチも、かなりの人気者でした。
セッチ・シリーズがかなりのロングランヒットになったのは、単なる学園明朗ドラマというだけではなく、いざという時セッチが汀に落ちぬよう、陰で優しく見守ってくれてる"理知的でカッコイイ大学生のお兄様"というサブキャラクターが存在する事で、セッチの成長過程の節目ごとに、読者が少しずつロマンスのイベントを見られるんじゃないかという、期待感を募らされ続けていたからでしょう。

・『森子物語』1〜2 岩館真理子(マーガレットコミックス)
リリカルまんがの旗手・岩館真理子の代表作を敢えてこの特集に取り上げたのは、ヒロイン・森子の、春の嵐みたいな思い込みの激しさに翻弄されて頂こうという事で。
近年の『うちのママが言うことには』等もそうですが、岩館真理子は繊細な絵柄ばかりでなく、内弁慶な人間ならではの、(ときに半端なコメディをも凌駕するほどずばぬけた)心理描写の面白さが、読み手側を強く惹き付ける魅力になってると思います。

・『サラダっ子純情』緒形もり(マーガレットコミックス)
イージーなタイトルに加え、のっけから既に"サラダを持った純情な娘"が登場。近年『うちのうめは今日もげんき』が好評の作者、緒形さん御本人ですら、ちょっと手に取るのがはばかられる1冊かもしれません。
とはいえ、昔も今も思春期の女子にイヤでも芽生える感情は何かというと、ズバリ、「なりきり」だったりするわけで、そんな少女時代を赤面しつつ振り返るには、もってこいの1冊といえるんではないでしょうか。そして、「少女まんが館」がかなり切実に保存していきたい蔵書というのは、こういう振り返る機会の少ないコミックスだったりもします。

・『5月のお茶会』水沢めぐみ(りぼんマスコットコミックス)
もしかしたらこの人の作品では身長155B以上のヒロインって皆無なんじゃないでしょうか?そして登場人物には体毛なんぞ、どこにも生えてやしないのでは?
…などという野暮な憶測がつい飛び出すのも、水沢作品でのメルヘンワールドが徹底して小さく可愛いキャラクター限定の秘境として存在し、そして、そこでのお茶会には動物に変身でもしない限り、自分が混ぜてもらえなさそうにもないだろうという、やっかみからです。でも、掲載誌「りぼん」には本来、一番ふさわしいタイプの少女まんがではあります。

・『ナオミ・あ・ら・かると』弓月光(りぼんマスコットコミックス)
女の子が少女まんが読んで大口開けて笑ってもOKになったのは、土田よしこよりも弓月光のおかげ、そして彼のデビューを許した「りぼん」編集部のおかげ。
もう今や、多重人格や人格分裂ものの漫画など珍しくもなんともなくなってしまいましたが、当時この作品をゲラゲラ笑って読んでた私は、人格分裂って弓月光が考えた病気だと思ってました。

・『クロッカス咲いたら』田渕由美子(りぼんマスコットコミックス)
・『金曜日にはママレード』小椋冬美(りぼんマスコットコミックス)
ともに「りぼん」での'70年代後期における人気作家の作品。
両作品とも、今も色褪せないファッショナブルさが魅力です。
ニューミュージック色がやや強かった田渕作品から、年々ロック色が濃くなっていった小椋作品へと続けて読むと、「りぼん」が一時期担っていたファッションリーダー的役割が何となく、見えてくる事でしょう。

・『ピカピカ・ギャル』谷地恵美子(あすかコミックス)
・『ナンパちゃん』高口里純(サンコミックス)
こちらはいずれも白泉社出身の作家作品。
谷地、高口のご両名ともに'70年代末〜'80年代初頭にかけてパンク・ロックやニュー・ウエイブに傾倒なさってた事もあり、しかも白泉社の少女まんが誌編集部が新しものに寛容だったというのも手伝っているからでしょうか、かなりマニアックなネタが要所要所でぽんぽん飛び出してたりします。
しかし、両タイトルとも男女の違いこそあれど、主人公自身は「どちらかというと過激なものにはウブである」という設定になってる為、読者が置いていかれる程のつっ走りはなく、ギリギリながらも一応は"少女まんが"というカテゴリに納まっているのが、面白いところだと思います。

(1999年4月10日 記)